目が回るほどの忙しさ、とはこんな状態を言うのでしょう。2週間に渡る個展を終えるや否やタイへの取材。バンコクに向かう機内でホッと一息と思っていたのですが今回初めて訪れるチェンマイなどを持参した資料で調べていたらもう到着。その後は撮影の連続で、気がついたら帰国便に乗っていました(写真って結構ハードなのでよほど好きでないと続きません。カッコ良さだけでプロを目指す人は再考の余地あり…)。
その帰国便も早朝にチェンマイを発ち、バンコク、マニラを経て関空へ。自宅に帰ったのは夜の11時で翌朝9時からはホテルでのセミナーです。3回の乗り換えの内、1回でもトラブればセミナーは延期せざるを得ず、ヒコーキが遅延しませんように、と神に祈る思いでした。
でも、倒れた前総理を始め多くの政治家や売れっ子の芸能人たちは予定がギッシリで毎日このような思いをしているのでしょう。忙しさだけは芸能人並みになった、と喜んでいたらある女優とTVに出演することになってしまいました。
京都のカメラマンがその女優を案内しながら撮影もする、という内容で有料のケーブルTVで放映され、全国ネットでの放映はそのあと。「テレビ慣れ」する良い機会だと思って引き受けました。数秒間のカットだけなら何回か経験がありますが、女優と1時間というのは初めてでこれは勉強になるぞとその日を楽しみにしておりました。
5,4,3,2,1、スタート! 目の前でカメラが回り始め上空から大きなマイクが下りてきて少しでも暗がりに来るとライトが点灯される。7人ほどのクルーが私たちの歩みに合わせて撮影を続ける。春休みの嵯峨野とあって観光客も多く、彼女を見つけると
「あっ、○○だ!」と叫んで駆け寄ってくる。写真講師となってから少しは人前で話すことに慣れていましたが今日は勝手が違います。彼女から話を聞き出して下さい、とディレクターに言われていたのですがこうなったらそれどころではない。周りの雰囲気で緊張も高まり、自分のセリフだけでも危なくなってきたのです。
「上手な写され方」というテーマで何度かスピーチをしたことがあります。全身を写される場合、カメラに向かって正面に立たずに少し斜めに立った方がスマートに写るとか、あごを引いた方が良いとか、普段から自分が最も良く見えるカメラ位置を研究しておきなさいとか…。
ところがこの日、いつもそのことを話している本人がまったくダメになってしまったのです。案内する場所の説明はできても視聴者の喜びそうなセリフがなかなか出てこない。そんな自分にイライラしていた時、今度はボクが彼女を撮影する番となりました。ファインダーをのぞいたとたん、いつもの自分に戻っていくのが分かりました。TVカメラが私に向いていようと大勢の人に見られようとまったく気になりません。
つまり、写されるのはダメでも写す方は25年のキャリアを持つプロだということがこのとき分かったのです。「写す時」は冷静でいられるようです。彼女は、というともちろん写されるプロ。TVカメラの前でも私のカメラの前でも
さすがにいい表情をしてくれます。この番組をご覧になる時には私がしゃべっているところは無視して、私が撮影した彼女の写真と私の作品の紹介のところだけ見て下さいネ。
最近のTV取材の流行としてぶっつけ本番でカメラが突然現れ、ハプニングや予測できない面白さを追う番組が増えていますがその方が写される方は緊張しなくて良いかもしれません。いつ、いかなる時でも対処できる様、皆さんも普段からカメラの前でトレーニングを…。エッ、私ですか?もうヘーキですよ、ハイ。
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