第44回  レンズ越しの風景

涼を写す


  今年はことのほか暑い。これだけ暑いと少しでも涼しいところへ出かけたくなる。京都では昔から川床といって鴨川や貴船川に納涼床を出して、ひとときの涼を味わってきた。

 鴨川の川床は市中にあるので気温が下がる夕方から始まる。すだれ囲いや薄座布団、舞妓などが興を添える。あこがれの川床で夕涼みをしながら京料理を楽しもうと全国から人が集まる。

  一方の貴船川は市中より電車で約40分の洛北の山間にある。ここは「京の奥座敷」と呼ばれる涼しいところだけに昼間から床料理を味わう人でにぎわう。風流な川床と清冽な貴船川が見せる絶妙な組み合わせ。夏には絶好の被写体である。

  上の写真は川沿いに茂る葉の間から小さな滝をのぞき見るように写したものである。ぼかした緑が涼しさを感じさせ、遠近感の誇張にも一役買っている。納涼床の提灯やすだれなどを画面に取り入れてもおもしろい。川にゴミが少なく、いつも美しいのはお店の方などの努力であろう。

  この川へ来ると思い出すのは東北の奥入瀬である。十和田湖から流れでる奥入瀬渓谷には、千変万化の水の流れが生む躍動感あふれる景観が展開する。その距離は14キロにも及び、貴船川とは比較にならないが、後者はそこに「雅」を取り入れることで気品を感じさせるものに仕上げた。

 川床だけではなく、京都の美しさは人工美である。長い年月の間に、自然に何らかの工夫を加えて共生してきた。それが京都に住む写真愛好家には良きテーマとなっている。

  川だけでなく、植物園の噴水や精華町のフラワーセンターにある水のカーテン、浜大津の花噴水なども「涼」を感じさせるように写してみよう。そうすると寒い時に写すのとはまるで違う写真になるから不思議だ。
  でも、納涼床で舌鼓を打つのもお忘れなく。
 
                      (京都新聞より転載)