私は京都に生まれて京都で育った。ところがフリーの風景写真家となってからは日本国内と世界中の風景を撮影してまわる日々が続いた。フィルム現像のために京都に立ち寄る、という感じだった。幼いわが子に「おじさん、またきてね」と言われてワイフが笑い転げていた。
ドイツを取材中のある日、京都の17ヶ寺が世界遺産に登録されたことを知った。もちろんその全部の寺を知っている。なつかしく思うと同時に今後は「ふるさと」である京都を真剣に撮ろうと決意して帰国。それからテーマを絞って撮影を続け一冊の作品集にまとめ上げた。
ファインダーをのぞいている時に、ふと自分が旅行者の眼で京都を見ていることに気付くことがある。身体がまだ海外旅行を続けているのである。おかげで数多い京都の写真集の中で一味違うものができた。長年に渡り海外取材を続けた結果がこのような形で出てくるとは夢にも思わなかった。
ところで最近「日本に、京都があってよかった」というコピーが私の心を捉えた。車内吊りやポスターでよく見かけるが、これほど今の日本にそして京都にぴったりのコピーはない。戦時中にほとんど被害がなく1200年の歴史を秘めた文化財の多くが京都に現存する。経済発展を急ぐあまり一時は忘れかけた景観保全だがやっと京都市が条例制定に向けて動き出した。
何らかの形で文化財保存に協力したいなどと考えるのは還暦を2年後に控えた歳のせいであろうか…
(電通報 05.5.31号)
|