第50回  レンズ越しの風景

水温む

  今年は厳しい寒さであったが立春を過ぎると心なしか気持が和らぐ。暦の上で春だといわれれば、現実はどんなに寒くても春の兆しを感じるからであろう。特に何十年ぶりという大雪に見舞われた北国の人たちはどれほど春の訪れを心待ちにしていることだろうか。


京都の人は春と秋を楽しむために夏の暑さと冬の寒さに耐えている、といわれる。たしかに盆地特有の暑さと寒さは厳しいものである。一年中温暖なところで過ごすのは快適かもしれないが、それでは有難味がわからないのではなかろうか。寒さを知る者だからこそ春が来たときの喜びを感じることができるのだといえる。


京都は、ほぼ三ヶ月ごとに季節の変わり目が巡ってくるので四季が大変わかりやすい。そこから生まれた花鳥風月の心が歌に詠まれ、絵画などに表現されてきた。俳句や写真の愛好者が群を抜いて多いのもそこに起因する。表現者の一人としてこの地に住める幸せをしみじみと感じている。

上の写真は二条城(京都市中京区)のお堀である。快晴の日に城内の梅林を撮影に行ったのだが白鳥が気持ち良さそうに泳いでいた。逆光で撮影したので水がきらめき、いかにも水温む早春の温かさを表現することができた。


神社を流れる小川やつくばいの水なども逆光で撮影してみよう。きっと春の息吹を写し撮ることができるだろう。


しかし雪国ではまだすべてが雪の下である。それでも次第に晴れる日が多くなり、軒から滴る雪解雫(ゆきげしずく)は春の到来を感じさせる。陽だまりでは雪の間からふきのとうが顔を出し、川辺のネコヤナギは温かそうな白毛に包まれた蕾(つぼみ)を微風に揺らしている。
春はすぐそこまで来ているのだ。

                  (京都新聞 2月8日掲載)