「くんぷう」と読む。若葉の中を吹き抜ける快い風をいう。「風薫る」と同意語で、緑の色や香りまでも含んでいるように感じられ清新な気持になる。
初めてこの季語を知ったのは、若い頃ある女性から届いた手紙だった。なんと美しい言葉なのだろう、と感動したのを覚えている。
ほかに、冬の風が冷たく凍るように吹き渡る「風冴ゆる」、春の陽光の中をそよそよと吹く「風光る」など、風を表現した季語は多い。
さて、風を写真で表現するとどうなるか。
上の写真は京都市東山区にある智積院(ちしゃくいん)である。五月の晴れた日に五色の幕が風になびいていた。動くものを写し止めるのは難しいが、何枚か撮影して最も形よく写っているものを選び出せば良い。幕が静止していれば単調で退屈な写真となっただろう。
また、風は生活に潤いをあたえる。その例として京町家の坪庭がある。うなぎの寝床と呼ばれる細長い町家は隣家とのすきまがないため、真中に坪庭という空間を作っている。風が入ると、そこに植えてある棕櫚竹(しゅろちく)の葉がゆらぎ小さな音を立てる。長い歴史から生まれた、自然を愛(め)でる京都人の智恵である。
花の香りや小鳥の声を運んで来るのも風である。その時、我々は安らぎを感じ、ゆとりを覚える。
風を他のアートではどのように表現するのだろう。風をテーマにした作品展がどこかで開かれないだろうか。写真愛好家にとって大変勉強になるはずだ。
さぁ、もう花粉の心配もないので心地よい風を受けながら歩きましょう。
(京都新聞 5月10日掲載)
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