第62回  こだわり歳時記

京ことば  


「あったこおすなあ…」(暖かいですね)
先斗町の路地からあいさつの声が聞こえ、舞妓がそれに答えながら足早に通りすぎる(下の写真)。京ことばのやさしいひびきを京都以外の人が聞くとたまらない魅力を感じるらしい。


先日あるテレビ番組に出演した時に、いろいろな人から電話やメールを頂戴した。クラスメートの「元気そうやなあ」から始まり、「カメラの勉強になりました」とか「京都のことばってやさしいですね」などと言われた。


私は京都生まれの京都育ちなので「京ことば」に慣れ親しんでいる。始業式当日の祇園でのこと。あいさつ回りの舞妓さんを撮影しようと全国から多くの写真愛好家が集まっていた。あるお茶屋さんの正月飾りを写していた時、私の後方にいた人に大声でどなられた。「ワシの前に立つときはあいさつせんかい!」


その人はお茶屋の関係者でもなく、何かを撮影しようとしていたわけでもない。なのになぜこんなに言われなくてはならないのかと怒りがこみ上げてきた。これを京ことばで言うと「すんまへんけど、ちょっと前をあけておくれやす」となる。これではケンカになりまへんやろ?


昔から市民対等意識が定着している京都では、だれに対してもていねいな口調で話す。そのため、ぞんざいなことばを非常にいやがるのである。


民俗学者の梅棹忠夫氏によれば世界で最も美しいことばを三つ上げるとすればフランス語と北京語、そして京都の日本語であるという。その美しい京ことばをけっして京都弁とか、京都なまりなどと言ってはいけない。京ことばは歴史的に由緒正しいことばなのだと思っている。


日常の会話だけでなく、季節の移り変わりを表現するのも、大臣の進退が問われるのも「ことば」なのである。


あんさんのおことばはどうもおへんどすか?

(あなたの言葉は大丈夫ですか?)

              (京都新聞 2007年2月14日掲載)