第72回  こだわり歳時記


  栄枯盛衰 


 市内を彩った葉がほとんど散り、錦のじゅうたんとなった。これからは気温が日ごとに下がり、木枯らしの季節となる。この侘しい時期になるといつも平家の最後を思い浮かべてしまう。

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり…
この有名な書き出しで始まる「平家物語」は平家一門の興亡を中心にとらえ、仏教的無常観を基調にしてまとめあげた一大叙事詩である。源平の戦いから平家の滅亡までの「栄枯盛衰」を平安貴族たちの姿と新たに台頭した武士たちで見事に描き出している。

全盛時には「平家にあらずば人にあらず」と豪語したほどであったが、平家の公達の横暴な振る舞いなどが重なって、勢力が次第に衰えていく。終には源氏の再興を促す事となり、壇ノ浦に滅ぶ。まさに「驕れる者久しからず」である。

 

 上の写真は市内左京区にある大原寂光院で撮影した。紅葉の時期には大勢の人で賑わうが十二月の中頃になると人影もまばらになる。枝の先にわずかに残った紅葉が平家滅亡後この寺に法灯を灯した建礼門院の心境を物語っているかのようだ。

 さて、紫式部による「源氏物語」が登場して来年で千年を迎える。それを記念していろいろな催しが予定されているが、ある写真展に出品することになり遅ればせながら現代語訳を読み始めた。

 王朝物語のみならず日本文学史上の雄であり、恋愛小説の最高傑作と評されている。光源氏が数多の恋愛遍歴をくりひろげながら最高の栄誉を極めた後、愛情生活の破綻による苦悩に人生の無常を覚えるさままでが描かれており、平家物語と通じるところがある。歴史小説の平家も恋愛小説の源氏も行き着くところは同じであった。

「栄枯盛衰は世の習い」であることを肝に銘じよう。

              (京都新聞 2007年12月12日掲載)