第79回 家 族

最近知ったことだが「空巣症候群」という病気がある。

医学書によると空巣とは、ひなが巣立ったあとの空になった巣の状態のことを指す。子供が成長し家庭から離れていき、夫も仕事中心で、家に取り残された中高年の主婦に多い病気だとのこと。この病気の主な症状としては空虚感をおぼえ、無気力、不安感などを感じるそうである。
それが我が家にやってきたのだ。

子供たちが巣立っていったのは少し前だが、一昨年に愛犬が死んだのを皮切りに、昨年にはビンテージの愛車が次のオーナーの元へ巣立ち、今年1月に私の母が亡くなり、そして2月には20年以上走り続けたジープがガレージから姿を消した。いずれも老衰で仕方がないとはいえ寂しいことである。

母の死は急だったが、仕事をひとつもキャンセルせずに済んだ。
葬儀の4日後から4つの教室と10日後に海外撮影旅行が入っていたが予定通り実施することができた。順調に仕事ができるように気遣って逝った母に感謝しなければならない。

私は教室や撮影旅行で気が紛れて良かったが可哀想なのはワイフである。
家にぽつんと取り残されてたまらなかっただろう。通夜と葬儀で親戚が集まり、賑やかにしていたのに翌日以降は打って変わった静寂。しかも私が海外に出てからはたったひとりである。しっかり者のワイフだが「寂しくて仕方がなかった」と言うのであるから空巣症候群の発症寸前だったようだ。

今まで好きな写真の仕事を続けてこられたのは家族の協力があったからである。良い作品を写すために感性を磨くことは大切だが、家族との協力関係はもっと大切なのだ。最近の出来事でそのことを痛感した次第である。

そしてまた、いつまでも落ち込んでいてはいけない。亡(無)くなっていった者(物)に報いるためにも今まで以上にがんばる決意ですので応援をよろしくお願いします。