第22回  撮影マナー

京都の寺院に来られた方は次のような立て看板をご覧になったことでしょう。「三脚禁止」あるいは「撮影禁止」。撮影したくてやって来たのにガッカリですね。私がプロとしてデビューした頃にはそのような看板はほとんどなかったのです。ではどうして増えていったのでしょうか。

もう30年近く前のことですがデュークエイセスが「女ひとり」を歌って大ヒット。これが影響してか京都観光が大ブームとなりました。いわゆるアンノン族(雑誌のアンアン・ノンノを持つ若い女性たち)がどっと京都にやってきたのです。当然アマチュアカメラマンたちも押し寄せました。そして今のカメラブーム。

熱心な人ほど夢中になるのはどんな世界でも同じで、ファインダーを覗くと被写体がまだ小さい。柵を乗り越えてもっと前へ出れば撮れそうだ。でもそこには苔が、そして小さい花が…。入場料を払ったんだからいいだろう、ヨイショッと。

それがあなたが手入れをした庭だったらどうですか?見も知らぬ誰かが大切な苔を踏み荒らしているのを見たらあなただって「コラッ!」と怒鳴るでしょう?こうした行為の繰り返しで三脚禁止に、そしてさらに場所によっては撮影禁止になってきたのです。カメラマンの自業自得とも言えます。

また、カメラマン同士のマナーも大切です。駆け出しの頃の経験話を3つほどお話しましょう。

壬生寺で狂言の上演中、前にいたカメラマン同士でどちらかが邪魔だったのか大声でケンカが始まりました。一般の鑑賞者には大変な迷惑。同じカメラマンとして恥ずかしくなり途中で帰りました。

今度は北野天満宮で梅を撮影していたら若い男がやってきて「邪魔だからどけ」というのです。振り返るとその男の先生らしい年配のカメラマンがこちらを睨んでいる。よく本で見る著名な先生ではあったがこちらの方が先に来てカメラを構えていたのだから譲りませんでした。以来その先生の本は一冊も買っていません。

次はもっと著名な先生の話。

奈良の飛鳥の里にある石舞台を大型カメラで撮影していた時のこと。小雪が次第に本格的な雪に変わり出しました。いいぞ、待ちに待ったシーンが撮影できる!とその時、背後に人の気配が…。振り返って驚きました。そこには敬愛する入江泰吉先生と助手の方たち数名が「待機」していたのです。

「アッ, 先生ですか、すぐ片付けますので…」

「いえいえあなたが先に来ておられたのだから気にしないでどうぞごゆっくり。」

いまだにこの言葉が忘れられません。飛鳥の里はめったに雪が降らず、入江先生こそ待ちに待った雪であったに違いないのです。助手の方たちと一緒に黙ってどんな思いで待っておられたのかと思うと今更ながら先生の人柄が偲ばれます。

邪魔なものがあると無理に除けたり、人に大声で退いてもらったりするのは止めましょう。そんなことをしなくてもあなたのモラルと感性を大切にしていればもっとレベルの高い写真が撮れます。たとえば三脚禁止のところでは隠れて使ったりせず、高感度のフィルムと明るいレンズ(例えば50ミリの f1.4)で手持ちでがんばってみましょう。

もう、これ以上撮影禁止の場所を増やさないために…。

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