ジャパニーズ・ジェントルマン
北半球を取材する時はできるだけ10月に出かけるようにしている。最も天候が安定し、晴れる日が多いからだ。今回のロンドンもたまに曇る程度で大体晴れた。
有名な観光地を順番に撮影してまわる。ウエストミンスター寺院、ハイドパーク、ピカデリーサーカス、ロンドン塔などをひと通り写した頃、宿を変えてみることにした。好奇心が強いせいか、どんなに良い宿でも3日以上は泊まらない。
荷物を取りまとめて近くの駅まで行き、案内所で手頃なホテルを探してもらう。電話でホテルと交渉している係りの女性の語気が次第に荒くなっていく。私が提示した値段で折り合いがつかないらしい。その電話で彼女が「ジャパニーズ・ジェントルマン!」と言うのが聞こえた。さすが紳士の国である。自分がそう呼ばれていることに驚くと同時に嬉しかった。結局そのホテルでOKが取れた。
大英博物館へ
ある日、大英博物館へ出かけた。館内は三脚が禁止されている所が多いので手持ち撮影してもブレにくい広角レンズと標準レンズ、そして感度の高いフィルムを用意する。それをできるだけ小さいバッグに入れる。入館時の手荷物検査をスムーズにするためだ。
さて、ここは世界最大のアンティーク・ギャラリー。全部本物である。まずは最も有名な古代エジプト展示室へ。
多くの観光客が途切れるのを待ってシャッターを切る。何室か廻った後、ふとある疑問に捕らわれた。確かに素晴らしい展示品であるがなぜここにあるのだろう。
世界中から集められた…とはいうものの多くは植民地時代に持ち帰った物であろう。そう思うと突然シラケてしまった。それらを展示して観光客を集めるとはケシカラン!と怒りが込み上げて来た時、入場料を払っていないことに気が付いた。ここは入場無料だった。それなら怒れない…か。
あぁ困った…
一つでも疑問を持つと、どんどん不満が増えていく。
イギリス料理といわれる物をひと通り食べてみたが美味しいといえる物は一つもない。強いて言えば「フィッシュアンドチップス」ぐらいでこれはファーストフードである。
アメリカも同じだった。ステーキなんてただ焼いてあるだけで何の味付けもしていないのでテーブルに置いてある調味料でこちらが必死になって味付けするしかないのだ。無難なのはやはりファーストフードのハンバーガー。
アングロサクソン系の人々はなぜ味にこだわらないのだろう。映画やショーではあれほど楽しませてくれるのに、こと料理となるとまるでダメなのだ。一日の撮影を終えて唯一の楽しみが食事だけにあぁ困った事になった…。
しかし、少し歩いて捜すとインド料理をはじめ中華、ヴェトナム、タイなどの料理店があることが分かりアジア巡りを始める事になった。おかげでロンドンの後半は今自分がどこにいるのか分からなくなる始末。
天候は安定しているのだが街に魅力がなくなってくると厚い霧に覆われたように見えてきた。思いは霧のロンドンから花の都パリに移り、そして料理への期待に胸が高鳴ってきたのだが…
(つづく)
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