(アメリカ編 2)  逃げろ!


その後やっと晴れてニューヨークの観光名所を忙しく写し回った。エンパイアステートビル、タイムズスクエア、国連ビルなど、映画でしか見たことのないものをこの目で見ることができて感動の毎日。100人が見れば感動するものが少しずつ違うだろうがその中の最大公約数、つまり9割の人が感動するであろう対象をキッチリ撮らねばならない。それがプロの仕事なのだ。

マンハッタンの夜景を撮りにブルックリン地区へ地下鉄で行くことにした。ニューヨークでは道路が煩雑なのでレンタカーを使わずタクシーや地下鉄を利用した。ただ、治安が良くない地区へ「一人で」(王さんとは別行動の日だった)しかも「地下鉄で」出かけたのだ。

この地区に近づくとオフィス街とは客層がガラッと変わる。目的の駅に到着し階段を上がりかけてから、地上に出るとトイレがないことに気付いて再び戻り、ホームの一番端にあるトイレへ。

ドアを開けると中に5人ほどいる。オヤッ?ホームには誰もいないのに…と思った時、僕の後から入ってきた一人がドアの前に立ちかけたのだ。その時、手を洗って出ようとしていた白人が大声を出しながら僕の腕を引っ張って外へ飛び出した。訳がわからないままホームの中央まで必死で走った。

一瞬のことで何が起きたのかわからなかったがドアの見張り番が僕が中に入ってからドアを閉めようとしたらしい。その不穏な空気を察知した白人が「逃げろ!」と叫んで一緒に連れ出してくれたのだ。

あの時にもし閉じ込められていたらどうなっただろう。身ぐるみはがれるぐらいで済めばよいがその後グサリ…。そう思うと今さらながらゾッとする。

英語力をもっと身につけておくべきだった。次の訪問地ワシントンでもう一度痛い体験をすることになる。

< ついに連行される > 

首都ワシントンまでやって来た。どの国でもそうだが首都には議事堂を始め各省庁の建物がギッシリ集まっているためきちんと区画整備されている。雑踏のニューヨークから来ただけに美しい公園を歩いている感じで気持ち良かった。

さて、ここではまず大統領官邸のホワイトハウスを撮影に出かけた。正門の前には多くの観光客が来ていた。門越しに官邸を見ると太陽光線が斜めから当たり快晴の空に白い雲が浮かんでいる。偏向フィルターの効果が最も出るベストチャンスだ。急いで大型カメラを組み立てる。

黒いカブリ布を頭からかぶってピントを合わそうとしたその時…、両腕をギュッとつかまれたのだ。あわててカブリ布をはずして横を見ると二人の大柄な警官が大声で何か言っている。何を言っているのか解からない。何も違法な行為をしたとは思えないので撮影を続けようとした。すると一人が僕の体をつかまえ、もう一人がカメラを三脚ごと抱きかかえてどこかへ持ち去ろうとするのだ。警官の制服を着たドロボーか?と思ったがこんな白昼に公衆の面前でやるはずがない。いったいどうしたというのだ。

連れて行かれたところは交番所のようなところだった。官邸の警護所らしく窓から官邸が見渡せる。僕を連行した警官が 「Wait(待て)」 と言っただけで同僚と笑いながら話している。じっと待つしかなかった。

パラパラパラ…突然頭上に大型ヘリが現れて官邸の中庭に舞い降りた。門前の市民から大きな拍手が起こる。警官の顔が急に柔和になり話し掛けてきた。今度は 「President」 という言葉がわかりそして 「Finish」 と言ってカメラを返してくれた。

そうか、そうだったのか。つまり大統領がヘリで帰ってきたのだ。無事着地するまでは撮影禁止だったのだろう。ましてや大型暗箱に黒い布をかぶせてその中へ頭を突っ込み中で何をしているのか解からない…。警官も気味悪かったに違いない。

この日も通訳係の王さんは友達に会いに行っていた。いつも大切な時にどうしていないの〜などとグチってはいけない。本来なら一人で大陸横断する予定だったではないか。よし、明日からもっと話せるようにがんばってみよう…。

さて翌日、またまた一人でリンカーン記念館やワシントン記念塔などを撮影していた。次のジェファーソン記念館の位置が解からず通行人に尋ねた。 「Where is Jefferson Memorial(記念館はどこですか)?」 いかにもビジネスマンといった若い男性は僕の質問が理解できず首をかしげる。もう一度「同じ発音を」繰り返した。 「??」 困った顔をしてしばらく考えていた彼が解かった!とばかりに手を打った。 「Oh,Jefferson!」 彼が発した発音は僕の発音とは全く違っていた。僕は ジェファーソン のまん中にアクセントを置いたのだが彼は ジェファーソン と始めにアクセントを置いたのだ。正しく書けば ジェッファソンとなる。

英語はアクセントを置く位置が違うと全く通じないことがある。たとえば慣れた人でもなかなか通じないのがマクドナルド。抑揚のない日本的な発音ではまずダメ。マクナルドのまん中のドを思いっきり発音すれば通じる。次の機会に皆さんぜひ試してみては?

さぁ、この美しい緑の首都ともお別れだ。東部よサラバ…。いよいよ西部へ向かう。子供のころ憧れたカウボーイが今でもいるのかなぁ〜。

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